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長野地方裁判所 昭和54年(行ウ)3号 判決

長野県東筑摩郡明科町大字七貴五四八四番地

原告

勝野建材株式会社

右代表者代表取締役

勝野金男

右訴訟代理人弁護士

小笠原稔

長野県松本市城西二丁目一番二〇号

被告

松本税務署長

堀新一

右指定代理人

榎本恒男

重野良二

六馬二郎

山本宏一

曲淵公一

鮎澤五春

渡辺克己

主文

被告が原告に対して昭和五二年一二月二七日付でなした原告の昭和四九年九月一日から昭和五〇年八月三一日までの事業年度の法人税の更正及び重加算税の賦課決定を取消す。

被告が原告に対して昭和五二年一二月二七日付でなした原告の昭和五〇年九月一日から昭和五一年八月三一日までの事業年度の法人税の更正及び重加算税の賦課決定のうち、所得金額一、四六七万七、〇〇八円を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和五二年一二月二七日付でなした原告の昭和四九年九月一日から昭和五〇年八月三一日までの事業年度(以下「五〇年八月期」という。)及び同年九月一日から昭和五一年八月三一日までの事業年度(以下「五一年八月期」という。)の法人税の各更正並びに各重加算税の賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  原告(以下「原告」又は「原告会社」という。)の五〇年八月期及び五一年八月期の法人税について、原告のした確定申告、これに対して被告がした各更正(以下「本件各更正」という。)及び各重加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)並びに国税不服審判所長がした審査裁決等の経緯は、別表(一)の(1)及び(2)に記載のとおりである。

二  しかし、原告の五〇年八月期及び五一年八月期の各所得金額は別表(一)の(1)及び(2)に記載の確定申告に係る金額どおりであるから、被告がした本件各更正のうち各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法なものであり、また、本件各重加算税の賦課決定も所得を過大に認定した本件各更正を前提とする点において違法である。

よって、本件各更正及び本件各賦課決定の取消しを求める。

第三請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二  被告の主張

1  原告の五〇年八月期の所得金額は原告の申告に係る所得金額一、二九〇万一、六八八円に別表(二)に記載の順号1ないし3の取印に係る売上計上漏れ金額合計五六万六、〇〇〇円を加算した一、三四六万七、六八八円であり、同じく五一年八月期の所得金額は原告の申告に係る所得金額一、三八三万九、〇八八円に別表(二)に記載の順号4ないし11の取引に係る売上計上漏れ金額合計一三五万五、九二〇円を加算し未納事業税の当期認容分六万七、九二〇円を控除した一、五一二万七、〇八八円であるから、本件各更正は適法である。

2  別表(二)記載の各収入金の内訳

(一) 株式会社小岩井建設(以下「小岩井建設」という。)との取引について

(1) 原告会社と小岩井建設との間においては、かねて骨材の売買及び造成工事の下請といった各取引が継続的に行われていたが、本件各収入金に係る取引については、いずれも小岩井建設の工事現場担当者が工事の進行状況に応じて原告会社へ電話で発注し、原告会社においては当時同社の専務取締役であった勝野好友(以下「好友」という。)がその都度現場の状況を確認のうえ代金額をとりきめて各取引が成立し、各収入金についても好友が集金にあたったものである。

(2) 別表(二)順号1及び2の各収入金は内田農道改良工事代金の一部として、順号3の収入金は本郷南幼稚園園庭転圧整地工事代金として、順号4の収入金は富士電機スタンド工事代金の一部として、順号7の収入代金は大町北小学校の浄化槽工事代金の一部として、さらに順号8ないし10の各収入金はいずれも大久保原造成工事代金として、それぞれ別表(二)記載の各日付で小岩井建設から原告会社に支払われたものである。

(二) 株式会社野口組(以下「野口組」という。)との取引について

順号5の収入金は、野口組が旭町小学校の三期工事に係る残土処理代金の一部として昭和五〇年一一月六日原告会社に支払ったものであるところ、右工事は、野口組の現場責任者である沼田伸康が原告会社へ電話で発注し、原告会社では好友がこれを受けて取引が成立したものである。

(三) 有限会社後藤組(以下「後藤組」という。)との取引について

順号6の収入金は、後藤組が日本火災の駐車場造成工事代金として同月一〇日原告会社に支払ったものであるが、右工事に関する契約は後藤組の代表取締役後藤政治郎と好友が工事現場を確認したうえで締結したものである。

(四) 豊和不動産との取引について

順号11の収入金は、豊和不動産(個人経営)が松本市笹賀字二子の土地の埋立工事代金として昭和五一年四月九日原告会社に支払ったものであるが、右工事は豊和不動産の専従従業員豊田勝行が原告会社へ電話で工事を依頼し、同人と好友とが現場を確認し契約したものである。

3  経費についての主張

(一) 順号1、2、3、4、5及び7に係る取引の収入金は、いずれも原告会社で公表計上済みの取引に係る工事代金の一部であって、これらは売上げに計上されていなかったというにすぎないから、右各収入金に対する原価(経費)は当然原告会社の帳簿上損金に算入済みとみるべきである。したがってこれらの収入金につき重ねて原価を考慮する余地は全くない。

(二) 順号3、6及び11の取引の履行として原告が施行した工事には原告会社所有の重機等が使用されているところ、右重機等の使用に伴う費用は特段の事情がない限り原告会社の帳簿上損金に算入済みとみるべきであり、かつ右取引にあっては右の算入済みの費用以外の費用は存在しないと解されるから、いずれについても原価(経費)を考慮する必要はない。

(三) 順号8ないし10の取引に係る工事は、原告会社でさらに上條重機こと上條孝博に下請に出したものであるところ、原告会社はこの下請に係る工事費用を後日原告会社の損金としているから、右取引に係る収入金に対応する原価(経費)は既に原告会社の帳簿上損金に算入済みというべく、他に原価(経費)を考慮する余地はない。

(四) 順号11の取引に係る工事についても、原告会社はさらに上條重機に下請に出しているが、上條重機は右下請工事代金を原告会社からは受領していないから、これまた原価(経費)を考慮する余地はない。

4  しかるに、原告会社は前記右各収入金を五〇年八月期及び五一年八月期の売上げに計上しなかったのであるから、右各収入金はそれぞれ売上計上漏れとして各事業年度の各所得金額に加算されるべきこととなる。

5  本件各賦課決定について

(一) 別表(二)記載の各取引については、いずれも原告会社の専務取締役好友が専ら受注、集金等の任に当たっていたところ、同人は右各取引に係る収入金につき架空名義の請求書及び領収証を発行して故意にこれを隠ぺいし、原告会社はこれに基づき売上げから右収入金額を除外したものである。

(二) 右は、国税通則法六八条にいう事実を仮装し隠ぺいする行為に当たることは明らかであるので、被告は別表(三)記載のとおり各重加算税を賦課決定したもので、本件各賦課決定処分は適法である。

第四被告の主張に対する認否及び原告の反論

一  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、原告の所得金額に別表(二)記載の各収入金が加算されるべきものであるとの点は否認する。

2  同2につき

(一) (一)の(1)の事実のうち、原告会社と小岩井建設との間において継続して骨材の売買及び造成工事の下請といった各取引が行われていたことは認めるが、その余は知らない。(一)の(2)の事実は知らない。

(二) (二)の事実のうち、原告会社が野口組から旭町小学校の残土処理工事を受注したことは認めるが、その余は知らない。

(三) (三)及び(四)の事実は知らない。

3  同3は争う。

4  同4のうち、原告会社が右各収入金を各事業年度の売上げに計上しなかったことは認めるが、その余は争う。

5  同5につき

(一) (一)のうち、好友が各取引に係る収入金額につき架空名義の請求書及び領収証を発行した点は知らない。その余の事実は否認する。

(二) (二)は争う。

一  原告の反論

別表(二)記載の各取引はいずれも好友個人が行ったものであるから、本件各収入金は好友個人の所得とされるべきものである。このことは、当時好友が原告会社の業務に対して熱意を持っていなかったこと、本件取引は、原告会社が全く関知していなかったものであること及び本件各取引に係る利益を最終的に享受しているのも好友であることから明らかである。

第五証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし一二、第六号証の一ないし九、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし四、第一一号証ないし第一六号証の各一、二、第一七号証の一ないし一八、第一八号証の一ないし八、第一九ないし第二一号証の各一、二、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一、二、第二四号証の一ないし三、第二五号証の一、二、第二六号証の一ないし三、第二七号証の一ないし四、第二八号証の一ないし三、第二九ないし第三二号証の各一、二、第三三号証の一ないし四、第三四、第三五号証の各一、二、第三六号証の一ないし九、第三七号証の一、二、第三八号証の一ないし三、第三九ないし第四六号証の各一、二、第四七ないし第四九号証

2  証人勝野信治、同上條孝博、同百瀬征男、同牛越正、原告会社代表者

3  乙第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第一六号証、第一九、第二〇号証の各官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立はいずれも知らない。第二三号証の官署作成部分、契約書、一〇〇万円の領収書及び諸事録の成立は認め、その余の部分は知らない。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二、被告

1  乙第一号証の一ないし八、第二、第三号証の各一、二、第四号証、第五ないし第八号証の各一、二、第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第一六号証、第一七、第一八号証の各一、二、第一九ないし第二三号証、第二四号証の一ないし三、第二五、第二六号証の各一、二、第二七ないし第四〇号証、第四一号証の一ないし一二、第二四号証の一ないし三

2  証人細田隆、同本郷良一、同上條孝博

3  甲第一ないし第四号証、第一〇号証の二、第四七ないし第四九号証の成立はいずれも知らない。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因一の事実については当事者間に争いがない。

二  原告は、本件各更正のうち、各年度分の所得金額が原告の申告に係る金額を超える部分は、被告の過大認定であって違法であると主張するので、以下被告に係る売上計上漏れ所得の存否について検討する。

1  まず、官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分につき証人本郷良一の証言に真正に成立したと認められる乙第一〇号証の一によれば、別表(二)順号1及び2の各収入金はいずれも内田農道改良工事に関連した取引の代金として、順号3の収入金は本郷南幼稚園園庭の転圧整地工事に関する請負代金として、順号4の収入金は富士電機スタンド工事に関連した取引の代金として、順号7の収入金は大町北小学校の浄化槽工事代金として、順号8ないし10の各収入金は大久保原造成工事に関連した埋立用土砂の代金として、いずれも好友が別表(二)記載の各取引年月日に小岩井建設から支払を受けたものであることが認められる。また、いずれも官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分につき証人本郷良一の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一一ないし第一三号証によれば、順号5の収入金は、松本市内の旭町小学校の三期工事に係る残土処理代金の一部として、好友が昭和五〇年一一月六日野口組から支払を受けたものであることが認められ、いずれも官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分につき証人本郷良一の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一四ないし第一六号証によれば、順号6の収入金は、松本市内の日本火災の駐車場造成工事代金として、好友が同月一〇日後藤組から小切手にて支払を受けたものであることが認められ、さらに、いずれも官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分につき証人本郷良一の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一九、第二〇号証及び成立に争いがない同第二一、第二二号証によれば、順号11の収入金は、不動産業者である豊和不動産こと豊田和子の所有する松本市笹賀字二子所在の土地約一二九坪の埋立工事代金として好友が豊和不動産の専従従業員豊田勝行(和子の夫)から支払を受けたものであることが認められる。

2  ところで、本件の争点は、右各収入金が原告会社の収益とされるべきか、あるいは好友個人の収入であるかというにあるが、当裁判所は、以下に述べるとおり、これを原告会社の収益であると判断する。

(一)  成立に争いがない乙第二七号証及び証人勝野信治の証言によって認められる、砂利・砂の採集販売及び建材の販売、土木工事一式の施工・請負等という原告会社の目的と、前記1に認定の別表(二)記載の各取引内容とを対比すれば、右各取引は、いずれも原告会社の業務内容に含まれているものと認められる。また、いずれも成立に争いがない乙第二八、第三〇号証、証人細田隆及び同勝野信治の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、好友は、原告会社の代表者勝野金男の実弟で、昭和四三年一二月二〇日の原告会社設立以降昭和五一年四月二〇日に解任されるまで同社の専務取締役の地位にあったもので、主に工事現場の監督や得意先廻り、受注などのいわゆる外交の業務を担当していたものであることが認められる。一方、いずれも成立に争いがない乙第二四、第二五号証の各一及び同二六号証の一、二によれば、好友は、個人として本件のごとき取引をするについての関係省庁の許可を得ておらず、本件収入金はもとより、他の本件と同様の方式による収入金を個人の所有として徴税務官署に申告した事実もないことが認められる。

(二)(1)  当事者間に争いがない小岩井建設と原告会社との取引関係、前掲乙第一〇号証の一、いずれも成立に争いがない甲第六証の一ないし九及び同第一八号証の一ないし八、官署作成部分の成立に争いがなくその余の部分につき弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第九号証及び証人細田隆の証言を総合すれば、小岩井建設と原告会社との間においては、本件以前から継続して骨材(砂利、砂、玉石、砕石等の一般名称)の売買や埋立造成工事等の下請取引が行われており、右の下請工事の取引にあっては、工事の発注者である小岩井建設の各工事現場担当者が各工事の進行状況に応じて原告会社に対し電話で造成等の下請工事を発注し、これを受けた原告会社では主に好友が工事現場の状況等を確認したうえで工事代金を決めるという方法をとっていたものであるところ、本件における各工事の発注についても右と同様の経過で取引に及んでいるもので、いずれの取引についても発注者である小岩井建設としては原告会社をその相手方とする意思で発注したものであることが認められる。また、証人上條孝博の証言によれば、順号8ないし10の収入金に係る大久保原造成工事については、好友がさらにこれを上條重機こと上條孝博に代金一二〇万円の約束で下請させているが、上條重機ではこの発注者は原告会社であると理解していたもので、現に右工事終了後、代金の請求書を原告会社にあてて送付したことが認められる。

(2)  前掲甲第六号証の五、同第一八号証の二及び五によれば、順号1、2、4及び7に係る取引については、原告会社の帳簿上これらと相前後してあるいは同時期にそれぞれ目的の工事を共通にした取引に基づく売上が計上されていることが認められるが、前掲乙第一〇号証の一及びこれにより真正に成立したと認められる同号証の二、三によれば、これら計上済みの取引も好友が原告会社の専務取締役という立場で小岩井建設から受注した取引であって、特に順号7の取引は、一個の工事代金が原告会社と勝野工業名義の二口に分割して支払われたその一方を指すにすぎない(前者が計上済み分、後者が右7の取引分)ことが認められる。

(三)  前掲乙第一三号証によれば、野口組との取引に係る旭町小学校の残土処理工事は、野口組の従業員で現場責任者の沼田伸康が原告会社に電話で工事を発注したのに対し好友がこれを受けて取引が成立したものであり、右工事に使用されたダンプカーや土砂積込み用の重機はすべて原告会社所属のものであったこと、右工事代金については、好友から野口組に対し原告会社名義と「伊藤栄治」名義の二口に分けて請求したいとの申出がなされ(原告名義の五三万二、〇〇〇円の請求書は昭和五〇年一〇月九日付で、伊藤栄治名義の一〇万円の請求書は同月五日付でそれぞれ作成されている。)、野口組は右申出をいれて代金を右の二口に分けて支払ったことが認められ、他方、原告会社が野口組から旭町小学校の残土処理工事を受注したことがあるとの当事者間に争いがない事実及び成立に争いがない甲第三三、第三五号証の各二、証人勝野信治の証言により真正に成立したと認められる同第四八号証によれば、原告会社の売上帳にも野口組から旭町小学校の残土処理工事一式を受注した旨の記載があり、代金五三万二、〇〇〇円が同年一一月五日付で入金処理されている。(売上帳の同日付受入金額欄には四三万二、〇〇〇円との記載があるが、その前後の品名欄や差引残高欄と対比すれば、右は五三万二、〇〇〇円の誤記と認められる。)ことが認められる。

(四)  いずれも成立に争いがない甲第三八、第三九号証の各二、証人勝野信治の証言により真正に成立したと認められる同第四九号証によれば、原告会社は、後藤組の発注を受けて昭和五〇年八月二〇日から同年九月一〇日ころの間骨材の納入と重機による作業によって松本市内の日本火災駐車場造成工事を行ったこと、そして昭和五〇年九月二〇日付で右工事の代金と大久保原団地の工事代金の合計として五一万四、七〇〇円を後藤組に請求し、同年一〇月九日付で後藤組から五一万円(四、七〇〇円は値引)の支払を受けていることが認められるところ、前掲乙第一四ないし第一六号証によれば、右工事の契約は、そのころ後藤組の代表取締役後藤政治郎と好友とが工事現場を確認したうえで締結したものであって、順号6の収入金も右工事代金の一部として後藤組が好友に小切手で支払ったものであり、また、原告会社から後藤組に提出された右工事代金等に関する請求書(九月二〇日付)の欄外に残代金が一三万七、〇〇〇円存在している記載があって、好友が後藤組から小切手にて集金した前記収入金の一〇万円が右残代金にあたることが認められる。なお、右乙第一四、第一五号証には、右収入金に係る取引が一連の駐車場工事とは別個独立の、代金一〇万円の小口取引であった旨の記載部分が存するが、前記乙第一六号証の記載に鑑みれば、右記載部分は措信できない。

(五)  前掲乙第一九ないし第二二号証によれば、順号11の収入金に係る埋立工事は、豊和不動産こと豊田和子の夫で形式上は使用人の豊田勝行が昭和五一年二月ころ原告会社へ電話で工事の施行を申込み、その日のうちに同人と好友が現場を確認して口頭による契約をなしたもので、なお、右豊田勝行は好友を原告会社の従業員とみていたことが認められ、証人上條孝博の証言によれば、好友は、右埋立整地工事をさらに上條孝博に下請させたのであるが、右上條孝博も原告会社からの下請と理解していたことが認められる。

(六)  本件各収入金の帰属主体が誰であるかは、究極的には事業の経営組織、事業目的、取引の状況、取引先の認識等を総合勘案して決定されるべきであるが、右(一)ないし(五)に判示した諸事情に鑑みれば、本件各取引は原告会社の事業の一環としてなされたもので、その収入金も原告会社に帰属すると判断せざるをえないのであって、原告会社代表者尋問の結果により成立の認められる甲第二ないし第四号証(いずれも申述書)中の右認定に反する記載部分は措信できない。なお、前掲乙第一〇号証の一、同第一三号証、同第一六号証及び同第二〇ないし第二二号証、いずれも成立に争いがない乙第一号証の一ないし八、同第二号証、同第三号証の一、同第四号証、同第五ないし第八号証の各一、二及び同第一八号証の一、二並びに証人細田隆の証言によれば、原告会社には集金業務専任の従業員が存するにもかかわらず本件各収入金については好友自らが直接集金に赴いているし、集金に際し好友が作成して支払先に交付した領収証の作成名義人は別表(二)領収証発行者名義欄記載のとおりであるところ、これらはいずれも仮空名義であることが認められ、また、証人勝野信治及び同百瀬征男の各証言並びに原告会社代表者尋問の結果によれば、右各収入金が好友から原告会社へ交付された事実はなく、好友以外の原告会社の業務執行役員は、被告による指摘や小岩井建設からの工事内容についての苦情により初めてかかる取引が存在していたことを知るに至ったものであることが認められる。しかしながら、これらの事実は必ずしも本件各取引が原告会社の取引であることとあいいれない事実ではない。しかして、前掲乙第九号証によって認められる、好友が小岩井建設の現場責任者らに対し、本件各取引に係る支払通知書を原告会社に送付しないよう依頼した事実と、証人勝野信治の証言及び原告会社代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨に照らせば、本件各収入金は、好友において、同人が原告会社の専務取締役として受注した各取引につき、その内容及び代金を原告会社に過少申告したり取引先に代金の水増し請求をし、あるいは受注した取引につきこれを安価で下請に出すなどの方法により捻出した差額代金であって、これはすべて好友に着服されたものと推測されるから、右の着服された本件各収入金を原告会社の損金に繰り込むことは可能であろうが、さればといって右各収入金が原告会社の収益にあたらないことにはならない。(なお、損金処理をなしうる時期は原告会社の好友に対する損害賠償請求権の行使が不能となった時期であるし、かかる主張もないのであるから、これを本件各事業年度の損金とすることはできない。)

3  そこで次に、別表(二)記載の各収入金の額から控除されるべき原価の額について考察し、原告会社の所得の金額を検討する。

(一)  小岩井建設との間の順号7の取引、野口組との間の順号5の取引及び後藤組との間の順号6の取引については、前判示のとおり、いずれも原告会社においてすでに公表計上済みの取引に係る工事代金の一部であって、これを好友が原告会社に秘して着服したため、原告会社の売上げとして計上されなかったにすぎないのであるから、右各収入金に対応する原価は当然に原告会社の帳簿上損金に算入済みとみるべきであり、右以外の特段の原価の存在をうかがわせる資料もない。

(二)  被告は、小岩井建設との間の順号1、2の取引及び順号4の取引についても(一)における同趣旨の主張をなしている。しかしながら、前掲甲第六号証の六及び乙第一〇号証の二、成立に争いがない甲第一一号証の二及び証人勝野信治に証言により真正に成立したと認められる甲第四七号証によれば、右各取引(内田農道改良工事及び富士電機スタンド工事)に関連した原告会社の帳簿に計上済みの取引は、いずれも骨材の売買に関するものであると認められるところ、順号1、2の取引及び順号4の取引の内容は必ずしも明確でないものの、前掲乙第一、第一〇号証の各一、二によれば、右各取引は小岩井建設の帳簿上いずれも外注加工費勘定として処理され、同社社長小岩井芳郎は国税調査官に対し本件各取引のほとんどが造成工事の下請である旨陳述しており、順号1、2の収入金に係る各領収証にも「六人分」との但書記載がなされていることが認められるから、右各取引の内容は、前記原告会社帳簿計上済みの取引(骨材の売買)とは種類、性質を異にする、工事の請負であると推測される。そうすると、右各収入金は、むしろ前記原告会社帳簿計上済みの取引に係る取引代金の一部にあたらないとみるのが順当というべきところ、順号8ないし11の各取引にみられるように、好友は受注した取引につき下請業者をして工事を施行させた例もあることや、証人勝野信治、同牛越正の各証言及び原告会社代表者尋問の結果によって認められる、原告会社における重機類及び従業員の管理はかなり厳格で、好友の一存でみだりにこれを稼働させるのは至難のことであったとの事実に鑑れば、順号1、2の取引及び順号4の取引がいずれも原告会社の重機を使用し、あるいは従業員の労務提供のもとに履行されたとまで断定できないから、被告が主張する如く、右取引に係る原価は計上済みで、右各収入金額が原告会社の所得の金額になるものとは認め難い。しかして、他に右各収入金に関し原告会社の所得となるべき金額についての主張立証はない。

(三)  順号3の収入金に係る小岩井建設との取引については、二の1に認定した本郷幼稚園園庭の転圧整地工事という以上に工事の具体的内容は明らかではないが、右工事の性格からみて右取引に係る原価の存在が推定されるところである。しかしながら、前記(二)の認定結果に照らすと、原告会社の重機等が使用されていてすでに損金に算入ずみであるとはにわかに断定できないし、他に右原価についての主張立証はないから右収入金の全額を原告会社の所得とすることはできない。

(四)  小岩井建設との間の順号8ないし10の取引は、前判示のとおりさらに上條重機こと上條孝博に代金一二〇万円で下請に出されていたものであるところ、成立に争いがない乙第四二号証の二、証人上條孝博の証言及び原告会社代表者尋問の結果によれば、上條重機は好友からはその請負代金の支払を受けておらず、のちに原告会社との間で右下請に係る工事代金の支払につき紛糾したものの、最終的には右工事として原告会社から一〇五万円を受領しており、原告会社もこの支払った一〇五万円を損金とする経理処理をしていることが認められるから、右収入金についてはその全額が原告会社の所得金額に組み込まれるべきものである。

(五)  順号11の収入金に係る豊和不動産との取引も前同様に上條重機へ下請に出されているところ、被告は上條重機において右下請代金の支払を受けていない旨主張する。しかしながら、上條重機こと上條孝博は右埋立工事の代金を好友から受領済である旨供述しているのであり(証人上條孝博の証言)、右供述が不自然であると疑わせるような事情も見当らないから、下請工事代金の支払があったものと認めるのが相当である。したがって、本件収入金のうちから好友が上條重機に支払った金額を控除した額が原告会社の所得金額となるというべく、右収入金の全額を原告会社の所得の金額とすることはできない。しかるところ、証人上條孝博の証言中には乙第三六号証すなわち金額を一八万円とする領収証(成立に争いがない)が右工事代金として好友から受領した金員の領収証である旨の供述が存するが、右領収証は、「トヨタ不動産」宛とされており、かつ、前掲乙第二〇号証によれば、豊和不動産の仕入元帳上、昭和五一年九月三〇日付で二子の土地に関した上條孝博からの一八万円の仕入記載がなされていることが認められるから、右一八万円の領収証に関する前記上條孝博の供述は措信できず、他に上條重機が右埋立工事代金として好友から受領した金額についての証拠はない。そうすると、上條重機が本件埋立工事代金として好友から受領した代金額は明らかでないとするほかはないから、順号11の収入金に関しては原告会社の所得とされるべき金額が不明であることに帰する。

(六)  ところで、法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とされているところ、本件のように、原告の申告に係る所得の金額のほかにこれに加算されるべき所得の金額が存するか否かが争いとなっている場合には、課税庁たる被告において個々の所得の発生原因ごとに益金の額と損金の額を主張立証する責任があると解される。そうすると、右(一)ないし(五)に判示したとおり、順号5ないし10の収入金(収益)についてはその全額を原告会社の所得とするについて十分な立証があるといえるが、順号1ないし4及び11の各収入金(収益)に関しては、右各収益に係る原価(損金)を明らかなしめるに足りる証拠がないので、右後者の収入金(収益)については、原告会社の所得の金額への算入が全面的に否定されることとなるといわざるをえない。

4  そうすると、本件各更正のうち、五〇年八月期分については原告申告に係る所得金額一、二九〇万一、六八八円を超える部分、五一年八月期分については原告申告に係る一、三八三万九、〇八八円に順号5ないし10の各収入金合計八三万七、九二〇円を加算した所得金額一、四六七万七、〇〇八円を超える部分はいずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件各賦課決定のうち右各所得金額を超える部分に対応する部分は隠ぺい又は仮装行為の有無を判断するまでもなく違法であることになる。

三  本件各賦課決定(右二で判示した部分を除く。)について

前項において、その収入金につき原告会社の売上計上漏れと認定された各取引は、前判示のとおり、原告会社の専務取締役である好友が、各取引先との間で右取引に係る収入金の請求又は受領をする際に、原告会社名を使用せず架空名義の請求書及び領収証を発行して故意に隠ぺいしたものであるから、原告会社の本件過少申告を招いた原因は、右取引を担当していた好友による所得の一部隠ぺいにあったと認められる。しかして、すでに認定したように、好友の右隠ぺい行為は、好友が売上代金の一部を着服する目的でなしたものであるから、原告会社代表者など好友を除く原告会社役員、事務担当者らは右隠ぺい行為を知らなかったものと推認されるところである。しかしながら、重加算税賦課制度の目的が、隠ぺい・仮装行為に基づく過少申告、無申告による納税義務違反の発生を防止し、もって、申告納税制度の下における納税義務者の自主性の強化促進を図るとともに同制度の信用を保持するところにあること及び納税義務者本人の刑事責任を追及するものではないことからすれば、国税通則法六八条の合理的解釈としては、隠ぺい・仮装の行為に出た者が、納税義務者本人ではなく、その代理人、補助者等の立場にある者で、いわば納税義務者本人の身代りとして同人の課税標準率の発生原因たる事実に関与し、右課税標準の計算に変動を生ぜしめた者である場合を含むものであり、かつ納税義務者が納税申告書を提出するにあたりその隠ぺい・仮装行為を知っていたか否かに左右されないものと解すべきである。したがって、本件にあっては、原告会社の専務取締役であった好友が同社の所得の計算の基礎となる事実を隠ぺいしたのであるから原告会社の業務執行機関である原告会社代表者が右の隠ぺいを知らずして当該所得の申告をしなかったものであっても、原告会社自体が正当なる所得を申告すべき義務を怠ったものとして重加算税を賦課することはなんら違法ではない。そうすると、本件各賦課決定のうち右二に判示した原告会社の所得に加算されるべき金額に対応する部分については適法であるといえる。

四  以上によれば、原告の本件各請求は、五〇年八月期分の更正及び重加算税の賦課決定、並びに五一年八月期分の更正及び重加算税の賦課決定のうち所得金額一、四六七万七、〇〇八円を超える部分の各取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 小池善彦 裁判官小島浩は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 秋元隆男)

別表(一)の(1)五〇年八月期

〈省略〉

別表(一)の(2)五一年八月期

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

別表(三)

〈省略〉

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